抗加齢医学の目指すもの
「老化」という現象は、今まで自然現象として仕方のないものと考えられていました。医師も、病気なら最新の知識や技術を駆使して治そうとしますが、老化による心身の衰えには「年齢が年齢だけに仕方ないですね」というしか術がなかったのです。「抗加齢医学」とは、それをあきらめずに、「老化は治療可能」という考え方を持った医学です。
近年の医学の進歩によって、「老化」のメカニズムが解明されはじめ、老化・加齢も「病気=弱点」と考える時代となってきました。抗加齢医学は、その老化のプロセスそのものをひとつの「病気」と捉え、他の病気同様、その原因を克服することで老化を治療することを目的としています。しかし、その治療法は「不老不死」を意味するものではありません。
現在日本は世界に誇る長寿国です。厚生労働省の発表した2010年の簡易生命表によると平均寿命は、男性で79.64歳、女性で86.39歳です。しかしながら日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる生存期間のことを健康寿命といい、同じ年の健康寿命は、男性で70.48歳、女性で73.62歳となっています。その開きは実に男性で約9歳、女性では約13歳にもなります。この平均寿命と健康寿命の差をなくすことが『健康長寿』の達成であり、抗加齢医学の目指すものになります。具体的目標を提示すれば、介護のいらない高齢者をつくる、寝たきりをつくらない、認知症を予防する、癌を予防する。このように老化による心身の衰えを防ぎ、健康なままで人生を全うすることを目指す医学なのです。
抗加齢医学研究に期待されること
厚生労働省の研究報告から、健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回った場合、要介護2以下の人の状況如何により2011〜2020年の累計で最小約2.5兆円、最大約5.3兆円の医療費・介護費が削減されると推定されています。「健康寿命」が伸びることは享受する個人にとっても、その個人が従事する産業界にとっても望ましく、さらに、社会全体に広まることで、将来にわたって持続可能な社会保障制度へとつながります。
このような背景をもとに、2013年2月に 「健康・医療戦略室」が内閣官房に設置されました。健康・医療戦略室は、我が国が世界最先端の医療技術・サービスを実現し、健康寿命世界一を達成すると同時に、それにより医療、医薬品、医療機器を戦略産業として育成し、日本経済再生の柱とすることを目指すものです。国を挙げての「健康・医療」への取り組みは、わが国自身の産業育成・国際競争力向上のみならず、日本発の「健康長寿社会モデル」を構築し、今後、世界各地で問題になる持続可能な超高齢社会づくりにも貢献するものと注目を集めています。
私たちが取り組む抗加齢医学研究では、 (1) 老化のメカニズムの究明、 (2) アンチエイジング(老化度判定)ドックなどによる診断、 (3) 抗加齢医学に基づく医療やサービスの提供の 3 つが主体となっています。抗加齢医療の指導や治療は、国家的取り組みである「健康長寿」を実現させるための具体的・実践的な提案となるのです。
アンチエイジングリサーチセンター研究概要
本プロジェクトでは以下の項目について研究活動を行っています。
@身体における老化度の診断と評価方法の確立
A加齢に伴う筋肉量の退行性変化
Bヒトにおける老化促進因子の研究(酸化ストレス・代謝・心身ストレス・生活習慣など)
Cヒトおよび実験動物の酸化ストレスや糖化(glycation)に関する基礎的研究
D地域医療および労働衛生におけるエイジングケアのエビデンスの構築
現在、さまざまな抗加齢療法と言われている治療法の多くは、まだエビデンスが脆弱であるのが現状です。その中で、基礎レベル、臨床レベルでの研究を充実させ、実際の臨床に応用できる基礎研究、臨床研究のデータを蓄積し、今後の抗加齢療法に反映させることが重要と考えています。これにより、抗加齢医学(Anti-Aging Medicine)としての学問を体系化し、これらの知見を一般に公表・移転し、「健康長寿」社会実現への具体的提案を示すことによって、国内外を問わず、全人類がその恩恵を受けることができる事を目標としています。