生体内における蛋白糖化最終生成物(AGEs; advanced glycation endproducts)の蓄積は、組織の蛋白質を変性させ、機能低下を起こす原因の一つであることが明らかになっています。
生体中ではアミノ酸や蛋白質と還元糖が非酵素的に反応し、シッフ塩基(schiff base)の形成を経てアマドリ転移により糖化蛋白質(アマドリ化合物)になります。そしてアマドリ化合物は3-デオキシグルコソン(3DG)、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリセルアルデヒド、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドやカルボニル化合物を中心とする中間体生成を経て、AGEsの生成に至ります。
狭義の糖化反応はこれら一連の反応過程を意味します。しかし糖化反応を幅広く捉えると、アルデヒドと蛋白質との間に生じるカルボニル化生成物、グルコース過剰時のTCAサイクルの産物であるフマル酸によるサクシニル化生成物なども含まれます。
また、生体中のAGEs蓄積はさまざまな組織や細胞に障害を及ぼします。AGEsには受容体であるRAGE(Receptor for AGEs)と結合すると細胞シグナルを活性化し、炎症性サイトカイン生成を惹起する機構があります。RAGE以外にもAGEsをリガンドとして認識する細胞表面受容体は多数報告されています。
糖化ストレスとは、還元糖やアルデヒド負荷に起因する生体ストレスと、その後の反応を総合的に捉えた概念です。
糖尿病の大きな要因には糖化ストレスがあります。一方、非糖尿病であっても糖化反応は進行する場合があり、これをnormoglycemic glycationと呼んでいます。normoglycemic glycationの原因は、食後高血糖(160mg/dL以上)が最も大きく、その他に高中性脂肪症(130mg/dL以上)、アルコール摂取過剰(エタノール摂取15g/日以上)、尿毒素(uremic toxin)、果糖の過剰摂取などがあります。さらに喫煙、睡眠不足はAGEs生成を促進する因子になります。
動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中の原因には糖化ストレスによるアテロームの形成があります。慢性腎臓病(CKD; chronic kidney disease)患者ではAGEsのクリアランスが低下するため、体内のAGEs蓄積量が増加します。塩分の摂取過剰は、局所RASを介してAGEs/RAGEシグナル伝達機構を活性化している可能性があります。
眼科領域では、糖化ストレスが白内障や加齢黄斑変性に関与することも報告されています。
皮膚では糖化ストレスが皮膚のハリや弾力性の低下、黄ばみ、シワの原因になり、老化を促進します。さらに、糖化ストレスは卵巣機能にも障害を惹起し、生理不順や不妊の原因の一つになっています。
このように糖化ストレスは、さまざまな疾患の原因となるだけでなく、健康な人であっても老化を促進させる要因になっています。
糖化ストレス研究センターでは、糖化ストレスを生体の組織や器官にかかわる危険因子としてとらえ、各種AGEsや中間体測定法の確立、AGEs生成排泄経路の解明、糖化ストレス抑制素材の探索、老化や加齢に伴う糖化ストレスの影響などについて、基礎および臨床レベルでの研究を総合的に行っています。これらの研究成果をもとに、糖化ストレスを低減し、さまざまな疾患や老化を予防する生活スタイルを提案することを目標としています。