睡 眠
老化に伴う「睡眠の質」低下は健康増進や生活の質「QOL」向上の妨げとなり、生活習慣病や精神神経疾患の治療抵抗性につながります。そのメカニズムを知ることが「睡眠の質」向上に有用です。
生活習慣には食事、運動、睡眠といった因子より構成されますが、睡眠時間が生活の3分の1近くを占めるにもかかわらず「睡眠の質」に関する客観的評価方法が乏しいと感じています。睡眠に影響する因子は加齢、身体活動、メタボリックシンドローム、ストレス、食事、メラトニンなどホルモン、酸化ストレス、糖化ストレスなど多岐にわたりますが、個々の因子の寄与率については詳細な検討はなされていません。
当研究室では、これまで寝具が「睡眠の質」に及ぼす影響に関する調査(Evaluation of the effect of αGel embedded mattresses as bedding on the mind and body. Anti-Aging Medicine 2007)、ウォーキングなどの身体活動が睡眠時間など生活習慣に及ぼす影響に関する調査(The effects of walking on quality of life and various symptoms and issues relating to aging. Anti-Aging Medicine 2008)を行ってきました。
これらの調査を通じて身体活動、身体ストレス、メラトニン・DHEA(dehydro-epiandrosterone)・IGF-I(insulin growth factor-I)などの分泌ホルモン、酸化ストレスが睡眠の質の影響因子であることが確認されました。しかしここで用いられた指標はピッツバーグ睡眠質問票など主観データが中心であったため、評価や解析には限界があり客観的指標の必要性を痛感するに至りました。
昨今、国内外の研究動向として、近年、電子式三次元加速度センサーの開発が進み、腕時計サイズまで小型化され、煩雑な睡眠ポリグラフ装着なしに身体活動の定量的把握が可能となり、「睡眠の質」の客観評価への応用が期待されています。メタボリックシンドローム患者に合併率が高い睡眠時無呼吸症候群は「睡眠の質」を低下させ、成長ホルモン分泌を抑制します。さらには無呼吸時の低酸素血症と呼吸再開時の酸素血再還流時のフリーラジカルにより脳神経系に甚大な障害を与えるため、早期発見、早期介入が重要であることが認識されつつあります。
当研究室では近年開発された腕時計型電子式三次元加速度センサー(アクティグラフ)を用いて日本人の「睡眠の質」について客観的に評価方法するための基本情報を収集していきます。また、当研究室で産学共同開発した医療情報連携管理WEBシステム「Aging Check」導入医療機関(The human dock of tomorrow−Annual health checkup for anti-aging. Ningen Dock 2005)に協力依頼していくとともに、食品・サプリメント・健康器具などの製品を提供する企業や、運動・リラクゼーションなどのサービスを提供する企業と共同研究することにより、多数症例を集めるとともに「睡眠の質」向上因子について検証していくつもりです。
年齢、性別、生活習慣、身体計測値、血液尿検査、酸化ストレスマーカー検査、遺伝子発現検査(Gene Ontologyによる機能解析)などの身体情報もまた同時並行で収集し、「睡眠の質」との関連について解析していきます。